FXトレードを行っていると感じることの一つに、期待していたレートとは異なる価格で決済が行われることがあります。
実際、利益が出ると予想していた取引が結果として損失になった経験を持つ人も少なくないでしょう。この現象は、FXトレードにおいて「スリッページ」と呼ばれるものです。スリッページは、トレードにおいて損失を引き起こす要因となり得るため決して軽視してはいけません。この問題を正しく理解し、適切に対応することが重要です。
本記事では、FXにおけるスリッページとは何か、そしてそのスリッページをどのように回避すれば良いのかについて説明していきます。
スリッページとは?
FXにおけるスリッページは、「取引を実行する際に注文した価格と実際に約定する価格の間に差が生じる現象」を指します。スリッページは、マーケットが急速に変動する場合や流動性が低下している場合に発生しやすく、トレーダーにとっては利益や損失に影響を与える重要な要素となります。
スリッページは主に次の3つの要因で発生します。
まず、「市場のボラティリティが高い状況」です。たとえば、経済指標の発表や要人の発言など突発的なニュースが市場に影響を与えると、価格が急激に変動してトレーダーが希望する価格で注文を執行することが難しくなります。
次に、「流動性」の問題です。取引量が少ない通貨ペアや通常の取引時間外では、買い手と売り手のバランスが崩れ、希望価格での約定が困難になることがあります。この場合、大口注文を出すと市場価格に大きな影響を与えやすく、スリッページが発生しやすくなります。
さらに、使用している「取引プラットフォーム」や「業者側の技術的要因」といったインフラ的要素もスリッページに影響を与えることがあります。たとえば、注文が市場に送信されるまでの遅延やサーバの応答速度が遅い場合、注文が約定するまでに市場価格が変動してしまう可能性がありますし、業者によっては、スリッページを利用して利益を得ようとする不正行為が行われる場合もあるため、信頼性の高いブローカーを選ぶことが重要です。
ちなみに、スリッページにはポジティブスリッページとネガティブスリッページの2種類があります。ポジティブスリッページは、実際の約定価格が注文価格よりも有利になる場合を指し、トレーダーにとってプラスの効果がありますが、ネガティブスリッページは、約定価格が注文価格よりも不利になる場合で、損失を拡大させる可能性があります。
スリッページを防ぐ方法
では、どのようにしてスリッページを防ぐことができるのでしょうか?
スリッページを回避する方法は大きく分けて2つあります。具体的にその方法について詳しく説明していきます。
最初から約定力の高いFX業者を選んでおく
スリッページの原因にはさまざまな要因がありますが、FX業者の約定力はとても重要な要因です。FX業者の約定力が高ければ、注文を出してから約定するまでの時間が短縮され、スリッページのリスクや約定拒否のケースが減少しますが、約定力が低い業者では、注文から約定までの時間が長くなることがあり、その結果スリッページや約定拒否のリスクが増加してしまいます。
つまり約定力が高いFX業者を選べば、トレーダーは希望する価格とタイミングで取引を行いやすくより安心して取引を進めることができます。
ただし、スリッページの頻度やタイミングはFX業者ごとに異なるため、スリッページリスクを最小限に抑えるためには、複数の業者を利用し、それぞれの特性を比較・分析することが賢明です。その上で、業者ごとの特徴を活かし、最適な選択をすることが重要となります。それ以外にも、SNSやブログ等の情報を逐一チェックしておくことでリスクを減らすことが可能です。
許容スリッページを設定しておく
FX業者はそれぞれ異なる特性がありますが、許容スリッページを設定できる業者は多いです。以下は、あくまで参考ですが、このような値を自身で持っておけばそれを逸脱した場合には業者変更の検討材料となります。
スキャルピング | 0.3pipsから0.5pips |
スイングトレードや今の取引を必ず約定させたい場合 | 5pips |
値動きの激しい相場で取引する場合 | 5pipsから10pips |
その他 | 0pipsに近い小さな数値 |
スリッページを完全にゼロに設定することも可能ですが、これには注意が必要です。その場合、指定した価格以外では取引が成立しなくなるため、急激な価格変動時には取引がまったく成立しないリスクが伴います。特に市場が大きく動いている状況では、迅速な取引が求められるため、スリッページをゼロに設定していると注文が成立せず、結果的に損失が拡大する可能性があります。
活発な市場環境では、許容スリッページを5pipsから10pips程度に設定することで、取引の成立率を高めながら大きな価格差を避けることができます。ただし一度決めたら終わりではなく、トレードスタイルや市場の状況に応じて柔軟に見直すことが大事。スリッページの許容範囲を適切に調整することで、効率的かつリスクを抑えた取引が可能となります。
スリッページにおける注意点
スリッページについて理解する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらのポイントをしっかりと把握することで、より効果的にリスクを管理し、トレードを有利に進めることが可能になります。
逆指値注文ではスリッページが効かないケースがある
逆指値注文とは、価格が設定した水準を上回ると購入し、下回ると売却する仕組みの注文方法です。この注文が条件を満たすと、実際の市場価格で取引が行われるため、スリッページが発生する可能性があります。こうした状況は「逆指値がスライドする」とも表現されます。
逆指値注文は「ストップロス注文」としても知られ、主に損失を抑える目的で利用されます。最大の特徴としては、条件を満たした時点で自動的に取引が執行されることにより取引が成立することそのものが重要視されます。そのため、許容スリッページの設定が影響を及ぼすケースは少なく、設定価格と市場価格の差を受け入れることが前提となります。
スリッページに振り回されないように
スリッページによる損失リスクを意識するあまり、その問題に過度に注意を向けてしまうことがありますがしかし、そのことが原因で取引のタイミングを逃したり、利益を得るチャンスを失うのは避けるべきです。
スリッページの影響は、投資のスタイルや戦略によって異なるため、一概に捉えることはできません。たとえば、スキャルピングやデイトレードのように短期的かつ頻繁に取引を行うスタイルでは、スリッページが取引結果に与える影響は大きくなります。一方、スイングトレードや長期的な投資では、スリッページの影響は比較的少ない傾向があります。よって、スリッページに対して「これが正解」という唯一の解決策を求めるのではなく、自分の投資スタイルや戦略に合った適切な対策を講じることが大事になります。